塩分摂取量ががんに及ぼす影響
前回の記事では、塩分摂取量が多い人ほど血圧が高く、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高くなる可能性があることを示唆する研究結果をいくつかご紹介しました。
しかし、塩分の健康に対する影響はどうやらそれだけではなさそうです。
塩分摂取量が多いことで、高血圧や脳卒中になるだけでなく、胃がんのリスクも上昇する可能性もあります。日本で行われた年齢45-74歳の77,500人を6-9年追跡した研究 [※1]があります。この研究の結果、食塩の総摂取量とがんの発症率との間には関連は認められなかったものの、塩分濃度の高い食品(漬物、たらこや明太子などの塩漬けの魚卵)の摂取量が多い人ほど胃がんの発症率が高いという結果が得られました。機序としては、塩分濃度の高い食品(もしくは加工過程で生じる発がん性物質)によって胃の粘膜が傷つけられることががんの原因である可能性が示唆されいます。ちなみに、塩漬けの魚卵と干物・塩蔵魚の摂取量が多い人では大腸がんのリスクも高いという結果でした。
欧米人には大腸がんが多い(胃がんは少ない)のに対して、日本人や中国人では胃がんが多い(大腸がんは少ない)のは、日本食や中華料理には塩分が多く含まれていることが原因の一つなのではないかという仮説があります(もちろんピロリ菌の感染率が東アジアで多いなど、その他の理由もある)。さらには、塩分摂取量が多い人ほど骨粗しょう症のリスクが高いという研究結果もあります。塩分が尿中に排泄される時に、骨を固くするのに必要なカルシウムが一緒に捨てられてしまうためだと考えれています。
ちなみに、塩分摂取量を控えるためにみそ汁などを薄めて「薄味」にして飲む人がいます。やり方次第では塩分摂取量を減らすことができますが、間違ったやり方をしている人もいます。例えば、みそ汁をお湯で薄めて、全量飲む人がいますが、これは意味がありません。お湯で塩分濃度が半分になったとしても、その薄味の味噌汁を2倍量摂取したら、結局身体に入る塩分の総量は同じになってしまうからです。重要なのは、「味が塩辛いかどうか」ではなく、どれだけの塩分が口から入っているかです。ラーメンやうどん、蕎麦などのスープに関しても同じことが言えます。
食事中の塩分量が少ないと物足りなく感じる人もいると思います。そう言った人には、ぜひ香りや酸味などの他の要素で補うことをおすすめします。例えば、同じ塩分濃度の食事でも、レモンや酢で酸味を加えると、味が濃く感じることがあります。同様に、ミョウガや紫蘇など香りの強いものと組み合わせることで、薄味であることが気にならなくなる傾向があります。
これらの研究結果は、塩分を控えめにすることで、脳卒中や心筋梗塞のリスクを下げることができるだけでなく、がんや骨粗しょう症のリスクも減らすことができる可能性も示唆しています。減塩することのメリットはたくさんあることが分かって頂けると思います。