高齢者の高血圧
読者の皆さんの中には、年齢がある程度高くなると、血圧はむしろ高めの方がいいなどとテレビで見たり、雑誌で読んだことがある人もいるかもしれません。正常な血圧の上限は「年齢プラス90」であるなどと聞いたことがある人もいるかもしれません。実際にはどうなのでしょうか?
たしかに昔は、高齢者で血圧をあまり厳密にコントロールすると、逆に脳やその他の臓器に十分な血流が行かなくなるのではないか、という考えが私たち医師の中でもありました。この考え方の根拠になっていたのが、高齢者では血圧を厳密にコントロールすることのメリットを証明した研究がない、ということでした。
ちなみにここでは医療機関などですでに高血圧と診断され、薬で血圧をコントロールしている人たちのことを説明しています。血圧が高くなく、薬を飲む必要がない人の話ではないのでご注意ください。
しかし、2016年に発表された有名な研究結果によって、この常識は変わりました。この研究では、75歳以上の高齢者においても、収縮期血圧を120 mmHg未満にコントロールされた人たちでは、140 mmHg未満にコントロールされた人たちと比べて、心筋梗塞や脳卒中の発症率、死亡率が低かったことが明らかになりました。この研究の発表以降、高齢者では血圧の目標値を高めにするという常識は過去のものとなり、いまでは高齢者でも収縮期血圧を低めに保つことのメリットが認識されています。
このように医学的に正しいことは恒久的に正しいのではなく、新しい研究結果によって医学界の常識が変わることもあります。
一つ注意が必要なのは、人によっては本当に血圧を下げすぎない方がいいこともあります。例えば、血圧が下がるとふらふらして転倒してしまうリスクがある方などがこれに該当します。高齢者の場合には、転倒して足の骨を折ってしまうことで寝たきりになってしまうこともあります。寝たきりになると色々な病気になりやすくなり、場合によっては命にかかわることもあります。何が最善なのかは患者さんによって変わってきますので、血圧をどれくらいでコントロールした方がいいのかは、ご自分では判断せずに、必ずかかりつけの先生によく相談するようにしてください。