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減塩コラム:個人・集団への減塩アプローチ方法② | カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部 津川友介先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

個人・集団への減塩アプローチ方法②

前回は、減塩など健康を改善させるアプローチには、個人に対するアプローチと、集団に対するアプローチ(公衆衛生的なアプローチ)があることをご説明しました。この後者の方法で、効果的に国民の塩分摂取量を減らすことに成功した国にイギリスがあります。イギリスは、2003~2011年の8年間で、心筋梗塞と脳卒中の死亡者を約4割も減少させることに成功したと報告されています。ではイギリスがどのようにしてこのような快挙を成し遂げたのでしょうか?

イギリスが注目したのが塩分でした。2003年時点で、平均的なイギリス人は1日10グラム弱の塩分を摂取していました。これは世界保健機関(WHO)が推奨する1日5グラムよりはずっと多い値でした。

イギリスがとった戦略は、食品企業に対して、イギリス人の食塩摂取量の主要供給源となっている食品の、食塩含有量を5年間で40%低減してもらうように働きかけるというものでした。このプロジェクトの中心になったのは、イギリスの食品基準庁であり、パン、ケチャップ、ポテトチップスなど85品目が対象になりました。その中でも、イギリス人の塩分摂取量の源になっていると考えられたのがパンであったため、パンはターゲットとされました。

イギリス人の塩分摂取源
引用:【イギリス人の塩分摂取源】 [※1]

ところが、多くのパンメーカーは、食塩の含有量を減らすことで、パンの味が変わってしまい、売り上げが減ってしまうことを懸念した。そこで出された提案は、減塩を徐々にすることで消費者に気づかれることなく減塩を達成するというものでした。この提案をしたのが、医学や栄養学を専門とする科学者たちによって組織されたCASH(Consensus Action of Salt and Health)という団体でした。


この提案の根拠となった研究では、2つのグループで6週間パンを食べ続けてもらい、片方は通常のパンを、もう片方は段階的に5%ずつ減塩して、最終的に25%減塩したパンを食べるというものでした。6週間後に、被験者に味を聞いたところ、25%減塩したパンを食べたグループでも、味の変化に気づきませんでした。この研究の結果、少しずつ減塩することで、消費者は味の変化に気づかず、その結果として売上にも悪影響がでないと考えられました。


この研究を参考に、イギリスは徐々に食品に添加された塩分含有量を減らすことにしました。その結果、イギリス人の食塩摂取量は減少し、血圧も下がり、心筋梗塞などの虚血性心疾患や脳卒中による死亡率も下がったのです。


イギリスの減塩:血圧、脳卒中、虚血性心疾患による死亡率との関係
出典・参考:2014年BMJ Openより
【2003年から2011年までのイギリスの減塩:血圧、脳卒中、虚血性心疾患による死亡率との関係】 [※2]

日本食は、魚や野菜を多く摂取するという観点からは健康的な食事であるということができますが、その一方で、塩分摂取量が多いということと、炭水化物(特に白米)の摂取量が多いという2点の問題があります。日本食は、塩分を多く含むしょうゆやみそを使いますし、お漬物など塩分摂取源になる食品もあります。日本もイギリスの例から学ぶことができることがあるのではないかと思われます。

※1 https://president.jp/articles/-/23743

※2 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3987732/