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妊娠中の女性にとって最適な食事(第3回)| カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部 津川友介先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

妊娠中の女性にとって最適な食事(第3回)

女性が妊娠すると最適な食事は変わってきます。胎児の体の組織(器官)が作られる大事な時期であるため、そのために十分な栄養を摂取しておく必要があるからです。 つまり、お母さんの健康と胎児の健康の両方を考えなくてはならなくなります。

ここでは特に健康上の問題の無い妊婦を想定しています。 もし何か病気を持っていたり、妊娠に関連する併存疾患がある場合(妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など)は、 かかりつけの産科の先生と食事に関してしっかりと相談してください。

前回までの記事では葉酸、ビタミン、カフェインに関して注意して頂きたいことをご説明しました。 今回は妊娠中の女性が注意すべき食事からの感染症とその他のアドバイスに関してお伝えしたいと思います。

食事からの感染症に注意

生肉

妊娠中は免疫力が落ちていることもあり、感染症にかかりやすくなっています。 そのため、基本的には生ものは避ける必要があります。 特に生肉(生ハム、ローストビーフ、ユッケ、とりわさなど)は避け、肉は十分に加熱して食べることが推奨されています。

それ以外にも、妊娠中に感染することで、赤ちゃんに障害が出てしまう感染症もあります。 有名なものとして、リステリア菌とトキソプラズマの2つがあります。

リステリア菌とは、ナチュラルチーズ(殺菌処理されていないチーズ)、生ハム、スモークサーモンなどを通じて感染します。 妊娠中の人が感染すると、風邪のような軽い症状で済むことがありますが、胎盤を通じて胎児が感染した場合、早産、流産、死産の原因となるだけでなく、 赤ちゃんに髄膜炎や水頭症、精神・運動障害などがみられる場合もあり、注意が必要です。妊娠中はナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモンは避けましょう。

トキソプラズマは生焼けの豚肉の摂取によって感染します。さらには猫の糞などを介して感染することもあります。 ガーデニングの土に猫の糞が混ざっていて、そこから妊婦が感染することもありますので、妊娠中の人は土いじりは避け、 野菜や果物(特に土付きのもの)はよく洗って食べるようにして頂きたいと思います。 トキソプラズマも胎盤を通じて胎児に感染し、流産・死産だけでなく、赤ちゃんに脳や眼の障害を引き起こすことが知られています。

摂りすぎると危険なビタミンA

ビタミンDとは逆に、取り過ぎることで胎児を危険にさらしてしまう栄養素があり、その中でも代表的なものがビタミンAです。 サプリメントなどでビタミンAを摂りすぎると、胎児の先天異常のリスクが上がると報告されています。 ビタミンAはサプリメントだけでなく、うなぎやレバーなどに多く含まれています。 前述のようにレバーは葉酸を含むという点では良いのですが、ビタミンAの過剰摂取になってしまう可能性もありますので、 葉酸はレバーを大量に食べることではなくできればサプリメントで摂取した方がよいでしょう。

妊婦の感染予防に関しては、以下のポイントをおさえておいてください。

  1. 肉は十分に加熱して食べる(生肉は食べない)
  2. ナチュラルチーズ、生ハム、スモークサーモン、肉のパテは食べない
  3. 野菜や果物(特に土付きのものには注意が必要)はよく洗って食べる
  4. 生肉に触れたあとは手や調理器具をよく洗浄する
  5. ガーデニングなど土に触れる作業は避ける(どうしてもしないといけない時には手袋をして、その後はよく手を洗う)
  6. 猫との接触は注意して、糞尿処理は避ける

妊娠中のその他の食事

その他の食事や栄養素に関しての推奨は下記にまとめました。 日米で少し違うのですが、必ずしもすべてエビデンスがあるわけではないので、両者を見比べて自分にとって最善の食事を見つけて頂きたいと思います。

表.妊婦に推奨される食事基準
日本 米国
蛋白質 妊娠初期50g/日
妊娠中期60g/日
妊娠後期75g/日
(非妊娠時は50g/日)
体重1kgあたり1.1g/日(非妊娠時は0.8g/日)
炭水化物 推奨量はない。

非妊娠時の女性の目安量(ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量):摂取エネルギーの50~65%

食物繊維の非妊娠時の女性の目安量:17~18g/日以上
175g/日(非妊娠時は130g/日)。白米や小麦粉などの精製された炭水化物よりも、果物・野菜・全粒粉のような精製されていない炭水化物で摂取することが(食物繊維の摂取量28g/日以上)が推奨される。
脂質 推奨量はない。
目安量:
- n-6系脂肪酸9g/日
- n-3系脂肪酸1.8g/日
エビデンスが不十分であまり分かっていない。トランス脂肪酸は胎盤を通じて胎児に移行すると考えられているため摂取を控える。
微量栄養素 推奨量(食事とサプリメントを合計した量)(1日量)
- 葉酸440μg
- 鉄19.5mg
- カルシウム600~700mg
- ビタミンB1 1.1~1.4mg
- ビタミンB2 1.2~1.5mg
- ビタミンC 110mg
- ビタミンA 670μgRE
以下の栄養素を含むサプリメントが推奨される(1日量)。
- 葉酸400~800μg (妊娠第2期以降は600μg )
- 鉄27mg
- カルシウム250mg以上
- ヨウ素150μg
- ビタミンD200~600 IU

(注)日本の基準に関して、体重増加の目安以外は、厚生労働省.日本人の食事摂取基準(2015 年度版)「日本人の食事摂取基準(2015 年度版)」3より。米国の推奨量はUpToDate4より。

参考文献

※1

中林正雄. 妊娠中毒症の栄養管理指針. 日産婦雑誌. 1999;51:N507-510.

※2

厚生労働省. 妊産婦のための食生活指針「健やか親子21」推進検討会報告書. 2006.

※3

厚生労働省. 日本人の食事摂取算定基準(2015 年版). 2015.

※4

Garner CD. Nutritoin in Pregnancy. UpToDate Web site. https://www.uptodate.com/contents/nutrition-in-pregnancy. Published 2019. Updated 2019/1/8. Accessed.