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アルコールと健康の関係(第2回)| カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部 津川友介先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

アルコールと健康の関係(第2回)

前回は、アルコールは少量であれば脳梗塞や心筋梗塞のリスクを上げることはなく、研究結果によってはむしろ有益だというエビデンスをご紹介しました。 今回は、アルコールとがんとの関係、そしてがんや脳梗塞などの健康への影響を総合的に判断するとどうなるのかご説明します。

実は、アルコールはたとえ少量でもがん(特に乳がん)のリスクを上げる可能性は以前より報告されていました。 要は少量のアルコールが健康に良いかどうかは、動脈硬化への影響とがんへの影響の「つな引き」で決まるということです。 2018年8月には、この2つを組み合わせると健康への総合的な影響がどうなるのかを評価した論文※1が世界的に権威のある医学雑誌であるランセット誌に掲載されました。 この論文の内容をご説明します。

今回ランセット誌に掲載された論文は、世界195ヶ国で実施された592の研究を統合したそれこそ大規模研究である。 心筋梗塞や乳がんを含む23個の健康指標へのアルコールの影響を総合的に評価したものでした。

表1.アルコール摂取量とアルコール関連の病気になるリスクの関係
アルコール摂取量とアルコール関連の病気になるリスクの関係
横軸に飲酒量、縦軸にあらゆる病気になる総合点(動脈硬化もがんも合わせて重みづけ平均を取ったもの※)を表している。
正確には、障害調整生存率(DALY)という指標を用いて評価している。DALYとは、疾病や危険因子に起因する死亡と障害に対する負荷を比較できる形で、健康への影響を総合的に定量化するための指標である。

この論文に掲載された図(図1)を見て「あれ?」と思った読者もいるかもしれません。そう一見すると、1日1杯ではほとんどリスクが上昇していないように見えます。 ちなみにここでの1杯とは、純アルコール換算で10gのことを指します。10gの純アルコールはグラス1杯のワインやビールに相当します。

論文によると、健康リスクを最小化する飲酒量に関して、最も信頼できる値は0であり、95%の確率で0~0.8の間に収まるという結果でした。 この結果を受けて「最も健康に良い飲酒量はゼロである」と主張している人も多いが、私は個人的には「1杯までであればリスクは上昇しない」と解釈しても良いのではないかと思っています。

表2.アルコール摂取量とそれぞれの病気になるリスクの関係(女性のデータ)
アルコール摂取量とそれぞれの病気になるリスクの関係(女性のデータ)
横軸に飲酒量、それぞれの病気になるリスク(正確には障害調整生存率)を表している。

病気ごとで見てみると(図2)、心筋梗塞に関しては、少量の飲酒をしている人ほどリスクが低く(男性では0.83杯/日、女性では0.92杯/日の飲酒している人で最もリスクが低かった)、 ある程度以上になるとリスクが高くなるのが分かります。一方で、乳がんや結核は、少量からリスクが上昇しているのが分かります。 男性のデータもほぼ同じパターンでした(男性の場合は乳がんの代わりに口腔がんのリスク上昇が認めらました)。

つまり、1日1杯程度の少量のアルコールの場合、心筋梗塞や糖尿病のリスクが低いことと、 乳がんや結核(そしてアルコールに関連した交通事故や外傷)のリスクが高いことが打ち消しあって、 病気のリスクは変わらないという結果になっていると考えられます。

この結果を見て、私達はどのように生活習慣を変えれば良いのでしょうか?私は自分のリスクなどを総合的に判断して決めるべきだと考えています。 近い親族にがんになってしまった人がおらず、遺伝的にがんのリスクの低い人であれば、1日1~2杯のお酒を「たしなむように飲む」ことは問題ないと思われます。 それによって人生が豊かになる人もいると思われます。

その一方で、家族歴があるなどでがんのリスクが高めの方は、アルコールの摂取量を最低限に抑えることをおすすめします。 がんに関しては飲酒量がゼロの場合が一番リスクが低いと報告されているからです。 もちろんお酒が大好きでそれでは人生がつまらなくなってしまうという人もいるでしょう。 そういった人は飲酒の量を控えめにしてほしいと思います。お酒は量を減らせば減らすほどがんのリスクが下がると考えられるからです。

参考文献