アルコールと健康の関係（第1回）

お酒を飲むことで楽しい気分になってストレス発散になる人もいれば、気の置けない友人とワイワイお酒を飲む雰囲気が好きな人もいると思います。 仕事をしていれば会社の同僚や取引相手と毎晩のようにお酒を飲んでいる人もいるでしょう。 その人たちにとっておそらく心配の種の一つが「お酒は身体に悪いのか？」なのではないでしょうか。

お酒、すなわちアルコールに関しては、健康に悪いという話もあれば、少量ならばむしろ健康に良いという話もあって本当のところどうなのか分からないと困っている人も多いようです。 実はそれには理由があります。複数の研究結果から今のところアルコールと健康の関係に関しては2つのことが言えるのですが、 その2つが相反する内容なので、どちらを切り取るかで結論が「アルコールは健康に悪い」なのか「アルコールは少量であれば健康にむしろ良い」なのか変わってしまうのです。 ややこしいですね。今回から2回に分けて、このアルコールと健康の関係に関するエビデンスを紐解いていきます。

アルコールの健康への影響に関して、①脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化で血管が詰まる病気と、②がんの2つに分けて説明します。 今回は一つ目の、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化で血管が詰まる病気への影響に関してご説明します。

そもそもアルコールが少量ならば健康に良いのではないかという話はフランス人の食生活に関するある現象から来ています。 脂肪の摂取や喫煙は動脈硬化を起こして脳梗塞や心筋梗塞を起こすことは昔から知られていました。 ところが、フランスではバターなどの健康に悪い脂肪をたくさん摂取し、喫煙率も高いにもかかわらず、 近隣諸国よりも心筋梗塞の死亡者が少ないことが知られており、「フレンチ・パラドックス（フランスの逆説）」と呼ばれていました。 フランス人はワインの摂取量が多いため、これが健康に良い働きをしているためこのような現象が見られると仮説がここから生まれました。

その後、複数の研究がアルコールは少量であれば動脈硬化を原因とした病気によって死亡する確率を減らす可能性があると報告され、 これが「アルコールは少量であれば健康に良い」と信じられるようになってきました。 例えば、2018年4月に世界的にも権威ある医学雑誌であるランセット誌に掲載された論文※1では、 今までに行われた83個の研究結果を統合して解析したところ、アルコール換算で週100グラムまでであれば脳梗塞や心筋梗塞による死亡のリスクは上がらないと報告されました。

ここで注意が必要なのは、アルコールで脳梗塞や心筋梗塞のリスクが下がっている（因果関係）のか、アルコールを飲んでいる人が脳梗塞や心筋梗塞のリスクが低いだけなのか（相関関係）なのかは分かっていないということです。 遺伝的要因によってアルコールが飲める人と飲めない人がいます。アルコールを飲むと具合が悪くなる人はもちろん飲酒量が少ないことが知られています。 もしアルコール耐性の遺伝子を持っている人ほど脳梗塞や心筋梗塞のリスクが低いのであれば、アルコールを少量飲んでいる人ほどリスクが低くなるように見えてしまうことはありえると考えられています※2。

それではそれ以外の病気に関して、アルコールはどのような影響があるのでしょうか？次回ご説明したいと思います。

参考文献