「超加工食品」は本当に健康に悪いのか?
(第3回)
前回の記事では、超加工食品が健康にどのような影響を与えるのか評価した観察研究の結果をご紹介しました。
しかし観察研究には限界があり、本当に因果関係があるのかを評価することは困難です。
超加工食品の摂取量以外の食事内容や健康習慣(喫煙、飲酒量、運動習慣など)の影響は統計的に影響を取り除かれているものの、
その手法は完ぺきではなく、超加工食品の摂取量の影響を見ているのではなく、
それと相関するようなその他の健康習慣の影響を見ている可能性は否定できないという問題がありました。
今回はそのような観察研究の限界点を乗り越えることができた、実験から得られたエビデンスに関してご紹介します。
2019年5月16日、Cell Metabolism誌という一流誌に掲載された研究があります。 ※1アメリカのNIHの研究員は、20名の健康な成人(平均年齢31歳)を対象に実験を行いました。 研究対象者は約6000ドルの報酬の対価として、28日間、NIHの研究施設に収容され、厳格な食事管理が行われ、体重や健康への影響が検証されました。
この研究はランダム化比較試験という手法が用いられました。
つまり、20名の被験者はくじ引き(正確にはくじ引きではないが、コンセプトとしては同じものである)で2つのグループに分けられ、
片方は超加工食品が多い食事を与えられるグループに、もう片方はあまり加工されていない食品(以下、未加工食品とする)が多い食事を与えられるグループに割り付けられました。
1日3回そのような食事を摂取するものの、食べ足りない場合には、追加で食事することを許されました。 この追加の食事も研究者によって管理されました。
つまり、超加工食品が多いグループは超加工食品が多い食事を、未加工食品が多いグループは未加工食品が多い食事を追加されました。
14日後に、この2つのグループをひっくり返して、はじめに超加工食品が多いグループに割り付けられた人は未加工食品が多いグループに、はじめに未加工食品が多いグループに割り付けられた人はその逆に割り付けられました。 28日間の研究期間中、食事量、体重、消費カロリー、血糖値、ホルモンレベルなどあらゆるデータが集められました。
重要なポイントとして、この2つのグループでは、超加工食品の摂取量は違うものの、摂取カロリー、 たんぱく質・炭水化物・脂質などの栄養素、食物繊維の量などは同じになるように調整されていたということがあります。 ただし、ベースとして与えられた食事は同じになるように調整されていたものの、 食べ足りなくて追加で食べた分によってこれらの摂取量に差が出る可能性はあります。 いずれにしても、超加工食品そのものの影響のみを検証するように設計されていました。
わずか14日間の食生活の変化にも関わらず、超加工食品が多いグループでは、1日当たり500キロカロリーほど総摂取カロリーが多くなり、 その結果として約1kgも体重が増えていました(逆に未加工食品が多いグループは約1㎏体重が減っていた)。 この追加の500キロカロリーはほとんど炭水化物と脂質であり、たんぱく質の摂取量は増えていませんでした。
ここで超加工食品の方がおいしそうに見えるからつい食べ過ぎてしまうのだろうと思った人もいるかもしれません。 しかし、この研究で同時に行われたアンケート調査の結果によると、食事を見ておいしそうだと感じたと答えた被験者の割合は2つのグループで変わっていませんでした。 どうやら超加工食品の見た目や味の問題ではなさそうです。
ホルモン検査の結果、未加工食品が多いグループでは、食欲を抑制する効果があると考えられているペプチドYY(PYY)というホルモンの分泌量が増加しており、 一方で、グレリンと呼ばれる食欲増進作用があるホルモンの分泌量が減少していました。
一方、超加工食品が多い食事ではこのようなホルモンの変化が起こらないので、食欲が増進し、ついつい食べ過ぎてしまうというメカニズムが考えられました。
また、超加工食品が多いグループの方が食べるスピードが早かったとも報告されています。 超加工食品は柔らかくて飲み込みやすいので、「早食い」してしまい、その結果として満腹感を感じる前に追加で食べてしまったという可能性もあります。
重量あたりのカロリー量が多い食品を摂取すると食欲が増進されるという説があります。 この研究で用いられた超加工食品は重量あたりのカロリーが多かったため(全体のカロリー摂取量を2群間で揃えるため、超加工食品のグループはカロリーゼロのレモネードを飲むように指示された)、 そのため超加工食品に割り付けられたグループはついつい食べ過ぎてしまったという可能性も指摘されています。
この研究にもいくつかの批判があるため、研究者らはそれらの問題点を解決した研究を現在行っているようです。 例えば超加工食品そのものの影響を調べるためには、超加工食品が多いグループの食べる速度を遅くする必要があります。 食物繊維の量を揃えるために超加工食品が多いグループには食物繊維入りのダイエットレモネードが提供されているが、 それをスープに置き換えるなどして食べるスピードを遅くし、それによって結果が変わるか検証しているそうです※2(アメリカ人はスプーンでスープを飲むために、食事のスピードが遅くなります)。
過去3回の記事からも分かるように、超加工食品が健康にどのような影響を与えるかに関する研究の歴史はまだ浅く、
分かっていないことも多いというのが現実です。しかし、現代人の食事に大きな影響を与えているものであることは疑いようのない事実であり、
これからも色々とエビデンスが出てくると予想されます。 現時点では断定的なことは言えないものの、超加工食品が私たちの健康に悪影響を与えているというエビデンスは少しずつ蓄積されつつあります。
一般的に、超加工食品の方が安価であったり保存が楽であるため、ゼロにすることは難しいかもしれませんが、
健康のことを考えるのであれば(安全であるというエビデンスが出るまでは)できるだけ控え目にした方が良いと思われます。