「超加工食品」は本当に健康に悪いのか?
(第2回)
前回に引き続き、日本のみならず世界で注目されている「超加工食品」に関してご説明します。今回は、超加工食品が健康に与える影響に関するエビデンスをご紹介します。
超加工食品の健康に与える影響に関するエビデンスを理解するためには、少し時間をさかのぼる必要があります。2015年頃から、超加工食品の摂取量と健康の関係に関するいくつかの研究が報告されるようになってきていました。ブラジルの小児を対象とした研究では、超加工食品の摂取量が多い子どもほど高脂血症になりやすかったと報告されていました。※1 またスペインの学生を対象とした研究では、超加工食品の摂取量と肥満および高血圧との関係が示唆されていました。※2 ※3しかし、これらの研究はあまり質の高いものではなかったためそれほど注目されていなかったというのが現実です。
超加工食品が世間の注目を集めるようになったきっかけは、2018年と2019年にフランスの研究チームによって報告された2つの論文です。
一つ目の論文は、フランスで10万人の人を対象として約7年間追跡した研究(French NutriNet-Santé Study)で、BMJ(イギリス医師会の学会誌)という世界でも最も権威ある医学雑誌の一つに掲載されました。※4この研究の結果、超加工食品の摂取量が10%(重量で計算)多い人ほど、がんのリスクが12%高いことが明らかになりました。脂質、塩分、炭水化物の量など食事に関するその他の因子の影響を統計的に取り除いても結果は変わりませんでした。がんの種類別に検証すると、超加工食品の摂取量が多い人ほど乳がんのリスクが高いことが分かりましたが(閉経前後で分けて検証すると、閉経後の女性でのみ関係が認められた)、前立腺がんと大腸がんのリスクは変わりませんでした。
二つ目の論文は、同じくフランスの研究グループによる研究で、2019年2月にJAMA Internal Medicine(アメリカ医師会の学会誌)という世界でも最も権威のある医学雑誌に掲載されました。※5この研究では、45歳以上の約4万5千人を対象として、超加工食品の摂取量と死亡リスクを評価しました。超加工食品の摂取量が10%(重量で計算)多い人ほど、死亡のリスクが約14%高いという結果でした。
超加工食品の摂取量が多い人ほどがんになる確率や死亡率が高くなる理由(メカニズム)に関してはいくつか仮説があります。一つは、超加工食品は一般的に高カロリーで、塩分・脂質・糖分が多く含まれる一方で、食物繊維や各種ビタミンの含有量が少なく、それががんを引き起こす可能性が指摘されています。二つ目として、食品添加物は単独では安全性が確認されているものの、それらが複数合わさることにより、がんを引き起こす可能性が考えられています。三つ目として、超加工食品の多くは油で揚げるなど高温調理されており、その時にアクリルアミドという発がん性物質が作られているからという説です。もちろん自宅で調理した料理にもアクリルアミドは作られるものの、超加工食品を習慣的に多く摂取している人は、全体としてこのアクリルアミドの摂取量が多くなってしまっているのかもしれません。最後に、超加工食品そのものではなく、プラスチックの包装材から溶出するフタル酸エステルなどの化学物質が影響している可能性も考えられています。
いずれにしてもこの超加工食品の研究はまだはじまったばかりで、具体的なメカニズムに関してはまだ分かっていません。そもそもこれらの2つの研究は観察研究であり、本当に因果関係があるのかに関しては結論がでていません。もちろん、その他の食事や健康習慣(喫煙、飲酒量、運動習慣など)の影響は統計的に対処されているものの、完ぺきではなく、超加工食品の摂取量の影響を見ているのではなく、それと相関するようなその他の健康習慣の影響を見ている可能性は否定できません。そういった理由で、この研究結果を懐疑的に見ている研究者も少なくありませんでした。
次回は、超加工食品が健康に与える影響に関して行われた実験に関してご説明します。