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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

食事でがんを治すことはできるのか?
(その3)

前回の記事では、人間においてケトジェニック・ダイエットのような糖質制限食が、がんを縮小させたり、進行をゆっくりにさせるという科学的根拠がないことを説明しました。ケトジェニック・ダイエットはがん患者によく奨められる食事法として最も有名なものですが、がん患者がしばしば奨められる食事法は他のものもあります。


例えば、ゲルソン療法という民間療法があります。ドイツ出身のゲルソンという医師が提唱した民間療法で、コーヒーを用いて浣腸をして「デトックス」するのに加えて、大量の生の果物や野菜、野菜ジュースなどを飲むことを推奨されます。ゲルソン療法ががんの進行をゆっくりにしたり、縮小させるという研究結果はないだけでなく、健康を害すると報告されている危険な民間療法である(コーヒー浣腸による死亡例が報告されている)ので、がん患者には推奨されません。日本でも、医学的根拠がないのに「肌改善」を謳ってコーヒー浣腸を販売していた業者が旧薬事法違反で逮捕されています。


マクロビオティック(通称マクロビ)もしばしば耳にする食事法です。玄米、全粒粉を主食として、主に豆類、野菜、海藻類などから組み立てられた食事法です。マクロビは健康によい食事であると考えられています。しかし、マクロビががんに有効だと言う主張は間違いであるとされています。マクロビががんに有効であったと言う研究は質が低いことが明らかになっており、アメリカがん協会も英国のCancer Research UKも、がん患者にはマクロビは推奨していません。


治療中のがん患者にとって最適な食事

一般的に、がんを患った患者はいわゆるバランスの良い食事をすることが推奨されています。抗がん剤などで免疫力が落ちているときには、生ものや食中毒のリスクのあるものは避けて頂きたいのですが、それ以外には特に食べてはいけないものはないとされています。特にがんの治療中には体力や気力も落ちていますし、抗がん剤などによる吐き気で食欲が落ちていることも予想されます。これらを維持するためにも、自分の食欲がわくようなものを積極的に食べて頂きたいと思います。


がん治療後に、死亡率・がん再発率をおさえる食事

手術や抗がん剤などでがんを治療した後の食事はどうしたらよいのでしょうか?これに関して多くのエビデンスがあるわけではないが分かっていることをご紹介します。2016年に合計21万人のがん治療後の患者(がんサバイバー)を含んだ117個の観察研究を統合したメタアナリシス※1が発表されています。

その研究によると、野菜の摂取量が多かったグループは摂取量が少なかったグループと比較して、死亡率が14%低いという結果でした。また魚の摂取量が多い人は少ない人と比べて、死亡率が15%低かったと報告されています。一方で、アルコール摂取量が多い人は、少ない人と比べて死亡率が8%高いという結果でした。

健康的な食事(果物、野菜、全粒穀物のような精製されていない炭水化物、豆類、ナッツを多く摂取し、赤い肉や加工肉を控えめにした食事のこと)も評価しています。その結果、健康的な食事をしている人ほど死亡率が21%低いことが明らかになりました。一方で、赤い肉や加工肉、小麦粉などの精製された炭水化物、脂肪分を多く含む西洋風の食事をしている人では、死亡率が46%も高いと報告されています。

がんの再発を評価したところ、統計的に有意な関係が認められたのはアルコールだけでした。アルコール摂取量が多いグループの人は、少ないグループの人と比べて、17%再発率が高いという結果が得られました。一方で、前述の野菜や果物、健康的なもしくは西洋風の食生活とがんの再発との間には関係は認められませんでした。


がん治療後の患者にとって最適な食事

既存のエビデンスを総合的に判断すると、がんと診断されて治療が終了した患者は、死亡や再発を防ぐという意味でも健康的な食事をすることが推奨されます。ここで言う健康的な食事とは、野菜や果物、全粒穀物や玄米などの精製されていない炭水化物、豆類、ナッツなどを豊富に含む一方で、バターなどの動物性の油や赤い肉および加工肉を控え目にした食事のことを指します。糖質は全粒穀物や玄米などの精製されていない炭水化物によって十分量摂取し、バターなどの動物性の油は控えめにして、できるだけオリーブオイルなどの食物性の油を使うことが推奨されます。ケトジェニック・ダイエットのように極端に糖質を減らして脂質を増やすことは、がんを縮小させたり進行を遅くする効果は認められていないため、おすすめしません。

これらを総合的に判断すると、いわゆるがんのリスクを下げるような健康的な食事は、がん患者の食事としても最適なものであるということができます。しかし、これらの食事は補助的な意味合いしかなく、がんそのものを縮小させたり、進行をゆっくりにする効果は無いと考えられています。