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食事でがんを治すことはできるのか?(その2) | UCLA 津川友介先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

食事でがんを治すことはできるのか?
(その2)

前回の記事では、食事によってがんになる確率を下げることはできるものの、実際にがんになってしまったあとでがんを縮小させたり、進行をゆっくりにするような食事法は存在しないということをご説明しました。この分野においては世界中で数多くの研究が行われているものの、そのほとんどはがんに影響を認めないというがっかりな結果でした。もちろん将来的に新しい科学的発見が出てくる可能性はゼロではないものの、現時点で、本やメディアで紹介されているような「がんが消える食事法」は科学的根拠の無いものであると言ってもよいでしょう。


おそらくがん患者が一番よく耳にするのが「がんは糖分を栄養素にするため、糖分を減らすことでがんの進行をゆっくりにできる(もしくはがんを縮小させることができる)」というものだと思います。それをもっと厳格にしたものが「ケトジェニック・ダイエット」と呼ばれるものです。ケトジェニック食事法をはじめとする、いわゆる糖質を制限する食事ががんの進行をゆっくりにする、もしくは縮小させるという科学的根拠はありません。動物実験レベルではこの可能性を示唆する報告がいくつかあるものの、人間では同様の結果は認められていません。


ケトジェニック・ダイエットががんの進行を緩やかにするというエビデンスはない

ケトジェニック・ダイエットとは、一般的に糖質の摂取量を極端に制限して(例えば1日50グラム以下にするなど)、たんぱく質の摂取量はあまり増やさずに、その代わりに脂質を多く摂取する(総摂取カロリーの70%以上を脂質から摂取する)食事法のことを指します。

ケトジェニック・ダイエットは1920年代からてんかんの治療法として用いられており、てんかんの治療法としては有効性が明らかになっています。1960年代からは肥満に対する治療法として使われるようになり、最近では糖尿病、にきび、神経疾患、そしてがんに対する治療法として研究されています。


ケトジェニック・ダイエットのような極端な糖質制限をすると人間は飢餓状態になります。脳は糖分しか栄養素として使えないので、3-4日間このような食事をすると、何らか代わりの栄養源を探さざるを得なくなります。代わりの栄養素として、肝臓でケトン体という物質が多く産生されるようになります。

多くのがん細胞は、表面にインスリン受容体およびIGF-1受容体というものを発現しているため、高インスリン血症(血液中のインスリン量が多い状態のこと)や高血糖ががんの進行を早めるのではないかと考えられてきました。食事中の糖質の摂取量とインスリン量とは相関するため、糖質が高インスリン血症を通じて、がんの進行を早めるのではないかと考えられていました。この仮説に関しては1920年代から報告※1されていました。

1980年代に入ると、ねずみの実験においてケトジェニック・ダイエットががんの大きさを縮小させるという実験結果が報告※2されました。しかし人間を対象とした質の高い研究はいまだ行われておらず、人間においてがんの進行をゆっくりにするという科学的根拠はありません。数人の患者を対象としたごく小規模な研究※3※4(手術や抗がん剤などの通常の治療にケトジェニック・ダイエットを組み合わせたもの)はあるものの、それらの質は低いためはっきりとしたことは言えません。


ケトジェニック・ダイエットはがんに対してメリットが無いだけではなく、そのデメリットも忘れてはいけません。ケトジェニック・ダイエットの始める時には、「ケト・インフルエンザ(Keto flu)」と呼ばれる疲労、脱力感、消化器症状がしばしば認められます。それ以外にも、心臓の不整脈、便秘・下痢、口臭、筋けいれん、頭痛、骨折、膵炎、ビタミンやミネラルの欠乏症などの副作用が報告※5されています。

英国のがんに関する研究・啓蒙を行う団体であるCancer Research UKは、がん細胞が糖分のみによって養われているというもっともらしいロジックであたかも糖分ががんの進行を助けているような宣伝文句を目にすることがあるが、糖分を養分にするのは正常細胞も同じであり、糖分を制限することでがんの進行がゆるやかになるというデータは存在しない、と警鐘※6を鳴らしています。百歩譲って、ケトジェニック・ダイエットをするとしても、存在する研究は通常の治療(手術、抗がん剤、放射線治療)に組み合わせているものであるため、ケトジェニック・ダイエットは通常の治療を代替するものではないことは明らかです。