食事でがんを治すことはできるのか?
(その1)
確かに数多くの研究が、野菜や果物、玄米や全粒粉などをたっぷり食べて、牛肉・豚肉や糖分を控えめにすることでがんのリスクを下げる可能性を示唆しています。では、いざがんと診断されてしまったらどうなのでしょうか?そのような「健康的な食事法」は、いったんがんと診断された後に始めても効果があるのでしょうか?
本屋に行くと「○○でがんが消えた」などと言った本が山積みになっています。がんと診断されたときには誰もが初めは怖いと思うでしょう。このようなショックを受けている状況で「食事でがんが消える」という甘い言葉をかけられたら、それを信じてみたい気持ちになることも分かります。その弱くなった心の隙間に入ってくることで、こういった「がんが消える食事法」はがん患者の心のよりどころになっているのかもしれません。
結論から先にお伝えします。健康的な食事をすることでがんになるリスクを下げることはできるものの、一度なってしまったがんを食事で治すことはできないと現代の科学では考えられています。食事によってがんの進行をゆっくりにすることもできないと考えられています。これらはまだ最先端で研究が行われていないため、よくわかっていない(効果がまだ証明されていない)のではなく、実は数多くの研究が行われているものの、ことごとくがんに対して期待されたような効果が無いという結果に終わっているのです。
たしかに「〇〇を食べたことでがんが消えた」人も世の中にいるでしょう。ただし、そういった人は〇〇を食べたからがんが消えたのではなく、そもそもがんではなかった(一見するとがんのように見えるが実は良性の腫瘍であるということが一定確率であります)可能性が高いと思われます。もしくは、食事を変えると同時に、抗がん剤や放射線治療を行っており、実はこの医学的治療の結果としてがんが縮小したのかもしれません。いずれにしても、医学研究の結果と照らし合わせてみても、その食事法と癌が消えたこととの間に因果関係があるとは考えにくいとされています。
現時点ではがんを縮小させる、もしくは進行を遅らせることができる治療法は手術、抗がん剤、放射線治療の3つしか認められていません。
まだ限られた人にしか知られていないような「魔法のような治療法」は存在しないし、人間の自然治癒力を高めてがんを治す方法も開発されていません。万が一それらが開発されはじめているとしたら、その情報は本や知人から回ってくるものではなく、国立がんセンターやがん研究所有明病院のような日本トップのがん研究施設からでしょう。
一つだけ注意が必用なのは、がん患者にとって食事が重要ではない、と言っているのではないということです。がんの治療を行うに当たっても体力や気力を維持するためにも食事は重要です。実際に、世界で行われている食事法の研究の多くは、手術・抗がん剤・放射線治療などの通常の治療と食事を組み合わせることで、治療効果を改善したり、副作用を減らすことができるのではないかと期待されています。食事はあくまで医学的治療をサポートする役であり、それを代替するもの(がんそのものを縮小させたりする効果があるもの)ではないことに注意が必要です。
次回の記事では、がんと診断された患者さんにおいて食事がどのような影響を与えるのか、研究結果をご説明いたします。