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減塩コラム:「美味しさ」を見つける その② ~「味覚」の美味しさ~ | 千葉東病院 腎臓内科 川口 武彦先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

「美味しさ」を見つける その②
  ~「味覚」の美味しさ~


今回は、我々の五感(味覚・嗅覚・視覚・聴覚・触覚)のうち、「味覚」がどのように「美味しさ」に関わっているのか、改めて考えてみることにしましょう。「味覚」には「甘味」「塩味」「うま味」「苦味」「酸味」の5つ(基本味)があることは以前お話ししました。

「甘味」はエネルギー源である糖分の存在を、「塩味」はミネラルとして必要なナトリウムの存在を、「うま味」は栄養素であるタンパク質の存在をそれぞれ示していて、人が生きていくのに必要な栄養源として好ましい味、すなわち美味しさの一部となります。一方で「苦み」は毒素の存在を、「酸味」は腐敗の存在を示すもので、本来は人に害をもたらす好ましくない味であり、一般的には美味しくありません。

しかし、食経験を通じて安全な食物と認識されれば、コーヒーや梅干のように苦味や酸味があるものも美味しく感じることができます。その意味で美味しさには、本能的・生得的な美味しさと、経験的・後天的な美味しさの二種類があることも興味深いですね。

味覚

味覚は舌の表面にある「味蕾(みらい)」と呼ばれる部位で認識されます。味蕾は数多くの味細胞で構成されますが、1つの味細胞は「甘味」「塩味」「うま味」「苦味」「酸味」のいずれかに1つに特化して味覚を認識しています。ちなみに、以前は舌の場所によって感じる味が異なると考えられていましたが(皆さんも一度は「舌の味覚地図」なるものを見たことがあるかもしれません)、実際は舌のどの部分にも全ての味に対応する味細胞が存在しており、舌のどの部位でも全ての味を感じることが知られています。

それぞれの味細胞で認識された味覚情報は大脳(大脳皮質味覚野)に伝わり統合され、味として認知されます。その際に、甘味・塩味・うま味・苦味・酸味は互いに影響し合い、美味しさに一役買っています。これを「味の相互作用」と呼び、主なものとして、2種類以上の違った味が混在した時に ① 一方の味が強くなる「対比効果」 ② 一方の味が弱められる「抑制効果」 ③ 同系統の味がより一層強められる「相乗効果」の3種類があります。

スイカに塩をかけると甘味がより強く感じるのは「対比効果」、コーヒーに砂糖を加えると苦みが弱く感じるのは「抑制効果」、ダシとしてコンブとカツオ節を合わせるとうま味が飛躍的に増加するのは「相乗効果」の好例です。この「相互作用」は「美味しい減塩」に応用できますので、それぞれ具体的に見てみましょう。

  1. 対比効果
  2. 減塩料理ではどうしても塩味が薄くなりがちですが、対比効果を利用して、他の味覚と積極的に対比させることで、薄味でも塩味をより一層引き立て美味しく感じることができます。

    コース料理を食べる時に、食後ではなく料理と料理の間に、口直しとして甘いものやさっぱりしたものが出てくることがあるでしょう。これは対比効果によって個々の料理の美味しさを生かす方法の1つです。減塩のカレーやピザを食べる時にも、甘い果物やデザートをセットにして合間に少し口にすると、薄味でも効果的に塩分を感じることができ、減塩のカレーやピザでも美味しく減塩することができます。

    マスカット
  3. 抑制効果
  4. 塩分による美味しさを控えめにするためには、他の味覚による美味しさを併用することがポイントです。その場合、甘味やうま味だけでなく、本来ヒトに好ましくない酸味や苦味を活用できると美味しさのバリエーションが広がります。しかし酸味や苦味は強すぎると美味しさを損なってしまう可能性があります。特に苦味や酸味は、甘味・塩味・うま味に比べると少量でも強く感じます。ですので、抑制効果をうまく利用して酸味や苦味を適度に抑えながら減塩に役立てるのがよいでしょう。

    例えば、減塩料理に添える一品としてお惣菜やサラダがあります。これらのサイドメニューに塩分が多く含まれてしまうと困りますので、減塩するためにお酢やレモンをドレッシングとして活用することは以前にもお話ししました。その際にお酢やレモンに少量の砂糖を用いると、抑制効果によってお酢やレモンの酸味がまろやかになり、多くの方に受け入れやすい味となります。

    レモン
  5. 相乗効果
  6. うま味成分であるアミノ酸や核酸で相乗効果が見られることは有名ですので、実際に活用されている方も多いかと思います。うま味成分としては、コンブに含まれているグルタミン酸や、カツオ節に含まれるイノシン酸、干しシイタケに含まれるグアニル酸が代表的なものですが、グルタミン酸とイノシン酸を合わせるとうま味は約8倍に、またグルタミン酸とグアニル酸を合わせるとうま味は約30倍に増強されることが知られています。

    これは、うま味成分を感知するセンサーである「受容体」への刺激が、2つのうま味成分が共存することによって増強されるためで、科学的にも証明されています。私が毎年行っている減塩料理教室では、うま味の効果を参加者全員に体感してもらっています。百聞は一見(一味)に如かずで、ダシなしの減塩みそ汁の後に、コンブとカツオ節の合わせダシを入れた減塩みそ汁をのむと、うま味の相乗効果も手伝って、これが驚くほど旨い! 皆さんも一度是非体験してみて下さい。

最後に最近の味覚に関するトピックとして、なんと油の構成成分である「脂肪酸」が第6番目の味覚(基本味)かもしれないと言われています。舌に「脂肪酸」を感知するセンサーである「受容体」が発見されているのです。

油そのものの味と言われても、なかなかピンときませんが、脂肪酸は甘味やうま味と一緒だと「対比効果」によって甘味やうま味を引き出し、また苦味と一緒だと「抑制効果」によって苦味を和らげることができます。この「油の相互作用」については経験としてピンときますよね。今後は油も減塩に活用できそうです(ただし油の摂りすぎにはくれぐれも注意しましょう)。

ステーキ

以上いかがでしたでしょうか。「味覚」のメカニズムや味の相乗効果を知ることで、減塩の工夫ができそうでしょうか。少しでも自分に合った美味しさを見つけるヒントになれば幸いです。次回は「味覚」と並んで美味しさに欠かせない「嗅覚」についてお話しします。


文献・出典
(1)
Chandrashekar J, Hoon MA, Ryba NJ, Zuker CS. The receptors and cells for mammalian taste. Nature. 2006;444:288-94. PMID: 17108952
(2)
Running CA, Craig BA, Mattes RD. Oleogustus: The Unique Taste of Fat. Chem Senses. 2015;40:507-16. PMID: 26142421.