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減塩コラム:塩分を「減らす」 その③ | 千葉東病院 腎臓内科 川口 武彦先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

塩分を「減らす」 その③

今回は「塩分を減らす」というテーマでお話ししてきましたが、第3回目は「減塩を適切に行うための注意点」についてお話ししたいと思います。


現代の食生活では塩分の過剰摂取が問題となっており、高血圧を中心とする生活習慣病のリスクが高まっていることは、本コラムで何度も話題に出てきました。しかし、塩の成分であるナトリウムは、そもそも人間の体には不可欠なミネラルの1つで、体内のさまざまな生体反応や水分の保持に関わっています。そのため塩分が極端に不足してしまうと、疲労感や食欲低下といった症状や、脱水症を起こしてしまいます。近年では夏に真夏日や猛暑日が続くことも稀ではありませんので、脱水を背景として熱中症も問題になっています。特に日頃から適切に減塩されている方は、大量に汗をかいたり下痢をしたりした場合には、むしろ塩分が不足して体調不良となるリスクがありますので、状況に応じて適切に塩分を補充する必要があります。このような背景もあって、最近では「減塩(げんえん)」に代わって「適塩(てきえん)」という言葉も多く使われるようになりました。

熱中症

塩分摂取量の目標値は1日6グラムですが、一方で「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、成人にとって最小限必要な塩分量は1日平均1.5グラムと推定されています。とても少ない量で驚きますね。もともと人間の体は塩分摂取が少なくても大丈夫のように精密にできています。しかし、高温の環境下や運動で大量に汗をかくと水分とともに塩分も失われますので、その場合は補充が必要です。汗に含まれる塩分は個人によっても状況によっても異なりますが、およそ0.2%程度とされていますので、1リットルの汗をかくと約2グラムの塩分が失われる計算になります。発汗時に水を飲むことは重要ですが、食欲低下などで塩分が十分に摂れていない状況では、水と同時に塩分も補充した方がよいでしょう。参考までに「熱中症ガイドライン(2015年版)」では、熱中症の予防・治療として0.1~0.2%の塩分(1リットルあたり塩分1~2グラム)を含む水分を摂ることを推奨しています。これは汗と同じくらいの塩分濃度ですね。大量の発汗時や下痢など体水分を多く失った時は、普段と違って塩分を含むスポーツドリンクや経口補水液をうまく利用したいものです。

塩分

脱水予防の水分補充についても補足しておきます。脱水の状態を示す徴候の1つに「のどの渇き」があります。「のどの渇き」は体が水分を必要としているサインですので、当たり前のようですが、のどが渇いたらしっかり水分を補給しましょう。ただし御高齢の方は「のどの渇き」が感じにくくなっていますので注意が必要です。特に夏場はびっしょり汗をかかなくても、体の表面から蒸発する水分が多くなっています。体格にもよりますが1日1リットル程度の水分が皮膚や息から蒸発し、体温や気温の上昇によって蒸発する水分量はさらに増えますので、こまめに水分を補充しましょう。運動をする時など水分が失われることが予想される場合は、のどが渇く前に脱水予防として水分を十分に摂っておくことも重要ですね。また脱水の徴候として、尿の量や回数が少なくなることも知っておきましょう。尿は、余分な水分や体の老廃物を取り除くために腎臓で作られますが、体の水分が少なくなると腎臓で調整されて尿量は少なくなります。尿の量や回数が少なくなることも体からのサインですので、「トイレに行かなくて済むので楽」とは決して考えずに、しっかりと水分を摂ることが大切です。脱水が進行すると体のさまざまな臓器に障害をきたしますので、くれぐれも注意して下さい。

水分

最後に、以上の注意点は一般的な内容ですので、高血圧や心臓病、腎臓病などの病気にかかられている方や、降圧薬や利尿薬などの薬を服用されている方は、かかりつけの医師に必ず相談の上で、御自分の体に合った適切な水分・塩分管理を行いましょう。


今回は3回にわたって食事の塩分を減らす方法とその注意点についてお話ししました。健康的な食生活を送るためにできることから「減塩」を実践していきましょう。むやみに塩分を減らして味気のない食事にしても長続きしませんので、お好みに合わせて「美味しく減塩」することがポイントです。また、極端な減塩はむしろ体調不良の原因にもなりますので、自分のライフスタイルや体調に応じて「適塩」の視点も忘れないで下さいね。それでは、また次の連載時にお会いしましょう!