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減塩コラム:カリウムと減塩の関係 その③ | 千葉東病院 腎臓内科 川口 武彦先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

カリウムと減塩の関係 その③

前回のコラムでは、減塩に関連して、カリウムの効果についてお話ししました。カリウムは、食塩/ナトリウムの血圧上昇作用に対して拮抗的に働くことから、野菜や果物ようにカリウムを豊富に含む食品を摂取することによって、血圧を下げる(降圧)効果が期待できます。実際に、カリウムを補給することによる降圧効果は、過去のさまざまな研究で示されていますし、カリウム補給で脳卒中の発症リスクが下がることについても多く報告されています。

過去にさかのぼると、単独の食事成分ではなく、食事パターンが血圧管理に有効であることが報告されていました。なかでも野菜・果物・低脂肪乳製品が豊富に含まれ、飽和脂肪酸とコレステロールが少ないダッシュ食(DASH:Dietary Approach to Stop Hypertension)は世界的に有名であり、ダッシュ食と減塩を組み合わせた食事パターンの降圧効果についても報告されています。このダッシュ食の効果の背景には、カリウムの摂取も重要な役割を担っていると考えられています。最近では、ナトリウムの摂取量を減らしてカリウムの摂取量を増やすことの効果について、直接的に調べた研究が報告されました。今回のコラムではこの研究について、皆さんに御紹介します。

野菜・果物

これは中国農村部で行われた研究で、同じアジア人を対象にしています。そのため、欧米で行われた研究よりも我々日本人の環境に近い設定であると考えられます。実際に、この研究の開始時における患者さん全員の1日塩分摂取量は平均で10.8グラムでした。日本人の1日塩分摂取量は10グラム程度ですので、食事に含まれる塩分量は同じくらいですね。ただし研究参加者の具体的な選考基準として、脳卒中(脳血管病)の既往のある患者さん、あるいは60歳以上の高血圧を有する患者さんに限定していましたので、参加者の平均年齢は65.4歳、研究開始時の平均血圧は150/89mmHgであり、研究参加者の88%が高血圧を有していました。

この研究の目的は、食塩の成分であるナトリウムの摂取を減らす一方でカリウムの摂取を増やした場合の、脳卒中や心血管病の発症リスクや安全性について調べることです。減塩とカリウム補充を併せて行うことで、血圧が下がることは多くの研究で過去に実証されてきましたが、脳卒中や心血管病の発症を抑制する効果があるかについては、キチンと検証されたものは国際的に見ても少なく、その意味でも今回紹介する研究は大変興味深いものです。また、この研究の参加者数が約2万人と非常に大規模な点も注目に値します。研究参加者が多いほど治療介入の効果を検出しやすくなりますし、さまざまな背景を持つ多くの患者さんに対する介入効果についても検証できるからです。

この研究では、まず初めに研究に参加する患者さんに同意を得てから、通常の塩(通常塩:100%塩化ナトリウム)を使用する患者さんと、一部ナトリウムをカリウムに置き換えた塩(代替塩:75%塩化ナトリウム+25%塩化カリウム)を使用する患者さんの、2つのグループ(村落ごとの2グループ)に割り付けました。そして、約5年間、血圧の変化や脳卒中・心血管病の発症について調査しました。

塩分

まず、研究開始後の塩分摂取量の変化について確認したところ、通常塩を摂取していたグループ(10491人)と比べて、代替塩を摂取していたグループ(10505人)では、1日あたりの食塩摂取の変化量が平均0.9g減少し、血圧も3.3mmHg低下していました。そして5年間における脳卒中の発症率は、代替塩を摂取していたグループでは0.86倍と低下していることが明らかとなりました。また代替塩を摂取していたグループでは、心血管病の発症率が0.87倍、そして総死亡率についても0.88倍と低下し、代替塩による臨床的な効果が同様に認められました。一方で、カリウムを多く摂取することによる副作用については、両グループ間に有意な差はありませんでした。以上の結果から、過去に脳卒中を起こした患者さんや、60歳以上の高血圧患者さんに対しては、ナトリウムの摂取量を減らして、その代わりにカリウムを摂取した方が、脳卒中や心血管病に対する予防効果があり、それらの病気によって亡くなってしまう危険性も下げられる可能性がありそうです。

ただし、この研究結果を解釈する上で、幾つか注意しなければならない点もあります。この研究では、過去に脳卒中を起こした患者さんや、60歳以上の高血圧患者さんを対象にしていますので、脳卒中の既往がない方や高血圧でない方、あるいは若年者に対しても同様に、ナトリウムの代わりにカリウムを積極的に摂取した方が良いかどうかは、この研究からだけでは厳密には分かりません。また、具体的にどのくらいの量のナトリウムを減らして、どのくらいの量のカリウムを多く摂取した方が良いのかについても、この研究から明確な回答は出されていません。さらに、本研究に参加した方の腎機能の詳細は明らかではなく、体内のカリウムを排泄する腎臓の機能に応じたナトリウム・カリウムの調整についても、今後の検討課題と言えるでしょう。どんなに素晴らしい研究であっても、1つの研究結果だけを鵜呑みにしないように吟味する姿勢は大切ですね。このような研究結果を踏まえて自分に当てはめて実践する際には、ナトリウム摂取と同様に、カリウム摂取についても、御自身に合った適切な量をあらかじめ確認しておくのがよいでしょう。特に御高齢で食事量がもともと少ないような方や、病気をお持ちでミネラルのバランスに注意が必要な方、定期的に薬を服用されている方などは、かかりつけ医や薬剤師、管理栄養士による専門的な指導を受けることをお勧めします。

栄養相談

今回のシリーズでは、減塩に関連して、カリウムを摂取することの重要性についてお話ししました。食生活における適切な「減塩」を通じて、血圧を良好な状態に保ち、より健康的な生活を過ごすためには、同時に「カリウム」を適切に摂取することも欠かせません。皆さん一人一人の健康状態や生活環境、食事状況に合ったやり方で、無理のない減塩とカリウム摂取を是非実践・継続して頂ければと思います。 食事は、我々の身体を作る栄養源であるだけでなく、日々の生活に彩りを添える楽しみの1つです。皆さんがこれからも豊かな食生活を通じて健康的な暮らしを送られることを、我々一同心より願っています。

食事

文献・出典

  1. Poorolajal J, Zeraati F, Soltanian AR, Sheikh V, Hooshmand E, Maleki A. Oral potassium supplementation for management of essential hypertension: A meta-analysis of randomized controlled trials. PLoS One. 2017;12:e0174967. PMID: 28419159
  2. Vinceti M, Filippini T, Crippa A, de Sesmaisons A, Wise LA, Orsini N. Meta-Analysis of Potassium Intake and the Risk of Stroke. J Am Heart Assoc. 2016;5:e004210. PMID: 27792643
  3. Appel LJ, Moore TJ, Obarzanek E, Vollmer WM, Svetkey LP, Sacks FM, Bray GA, Vogt TM, Cutler JA, Windhauser MM, Lin PH, Karanja N. A clinical trial of the effects of dietary patterns on blood pressure. DASH Collaborative Research Group. N Engl J Med. 1997;336:1117-24. PMID: 9099655
  4. Sacks FM, Svetkey LP, Vollmer WM, Appel LJ, Bray GA, Harsha D, Obarzanek E, Conlin PR, Miller ER 3rd, Simons-Morton DG, Karanja N, Lin PH; DASH-Sodium Collaborative Research Group. Effects on blood pressure of reduced dietary sodium and the Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) diet. DASH-Sodium Collaborative Research Group. N Engl J Med. 2001;344:3-10. PMID: 11136953
  5. Neal B, Wu Y, Feng X, Zhang R, Zhang Y, Shi J, Zhang J, Tian M, Huang L, Li Z, Yu Y, Zhao Y, Zhou B, Sun J, Liu Y, Yin X, Hao Z, Yu J, Li KC, Zhang X, Duan P, Wang F, Ma B, Shi W, Di Tanna GL, Stepien S, Shan S, Pearson SA, Li N, Yan LL, Labarthe D, Elliott P. Effect of Salt Substitution on Cardiovascular Events and Death. N Engl J Med. 2021;385:1067-1077. PMID: 34459569
  6. Ingelfinger JR. Can Salt Substitution Save At-Risk Persons from Stroke? N Engl J Med. 2021;385:1137-1138. PMID: 34459568
  7. Ellison DH, Welling P. Insights into Salt Handling and Blood Pressure. N Engl J Med. 2021;385:1981-1993. PMID: 34788509