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減塩コラム:カリウムと減塩の関係 その② | 千葉東病院 腎臓内科 川口 武彦先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

カリウムと減塩の関係 その②

今回のコラムでは、減塩に関連して、ミネラルの1つである「カリウム」についてお話しします。

カリウムは野菜や果物に多く含まれているミネラルです。食塩の成分であるナトリウムと比べると、調味料として使用することがほとんどありませんので、カリウムは食卓では馴染みが少ないかもしれません。しかしナトリウムと同様に、カリウムは我々の健康を考える上で非常に大切なミネラルです。前回のコラムでも話題に上がりました2012年の世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、成人の血圧と心血管疾患、脳卒中、冠動脈性心疾患のリスクを減らすために、食事でのカリウム摂取量を増やすことを推奨しています。その理由として、カリウムには体内のナトリウムを尿から排泄するのを促し、血圧を低下させる働きがあることが挙げられます。実際に過去の臨床研究でも、カリウムの摂取量が少なくナトリウムの摂取量が多いほど、血圧が高いことが示されていますし、心血管病や死亡のリスクも少ないことが報告されています。現代の食生活では、食塩/ナトリウムの摂取量が多いことに加え、カリウムを含む野菜や果物の摂取量が不足がちですし、加工食など精製した食品ではカリウムの含有量が減ってしまいますので、特に高血圧の食事指導においては、減塩に加えカリウムの摂取が重要です。

バナナ

それでは、具体的に1日のカリウム摂取量をどれくらいにしたらいいのでしょうか。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日のカリウム摂取量の目標値を、成人男性では1日2500ミリグラム、成人女性では2000ミリグラムとしています。食塩/ナトリウムと異なり、カリウムの量と言われてもあまりピンときませんよね。イメージを持つために例を挙げると、カリウム約300ミリグラムに相当する量として、バナナ1本(約100グラム)、ジャガイモ半分(約80グラム)、納豆1パック(約50グラム)、豚モモ肉80グラム、牛乳200ミリリットル、がそれに相当します。一般に果物や野菜に多く含まれていますが、肉や乳製品にもかなり含まれていることが分かります。このように見てみますと、通常の食生活でカリウムが大きく不足することはなさそうですし、実際に最新の国民健康・栄養調査(2019年)でも、日本人の1日のカリウム摂取量が約2200ミリグラムであることが報告されています。

じゃがいも

しかし、2012 年の WHOのガイドライン では、成人の1日のカリウム摂取量として 3500ミリグラム以上が推奨され、2018年のアメリカ心臓学会(ACC)/アメリカ心臓協会(AHA)の治療ガイドラインでも、成人の1日のカリウム摂取量として3500~5000ミリグラムを目標値としています。以上より、国際的に見ると日本人のカリウム摂取量は少ない可能性があります。一方で、日本人の塩分摂取量は国際的に多いことが知られていますので、特に日ごろ塩分摂取量が多い方は、血圧管理の点からカリウムを豊富に含む食事を心がけると良いでしょう。

納豆

ただし、腎臓病の方は要注意です。腎臓の働きが低下すると体内のカリウムが尿から排泄されにくくなり、体内のカリウムが過剰(高カリウム血症)になってしまう可能性があります。そうするとカリウムを積極的に摂取することのメリットが減弱してしまうばかりか、場合によっては副作用による体調不良などデメリットも出てきますので、くれぐれも注意が必要です。日本人のおける1日のカリウム摂取量の目標値は、成人男性では1日2500ミリグラム、成人女性では2000ミリグラムと述べましたが、腎臓病の方では、その患者さんの腎機能低下の程度にもよるものの、1日1500ミリグラム以下の制限が必要な方もいらっしゃいます。その場合には、生野菜を水にさらしたり茹でこぼしたりして、野菜に含まれるカリウム含有量をむしろ減らす工夫が必要です。また一部の降圧薬や利尿薬など、薬の種類によっては体内のカリウムが過剰になりやすいものもありますので、腎臓病の方でなくても定期的に薬を服用されている方は、かかりつけ医や薬剤師、管理栄養士による専門的な指導を通じて、御自身に合った適切なカリウム摂取量を確認することをお勧めします。さらに、肥満や糖尿病の方は、果物でカリウムを補充する場合、適正なエネルギー摂取の範囲内にとどめる必要がありますので、注意点として加えておきます。

豚肉

今回は、減塩の視点から、カリウムを適切に摂取することの大切さについてお話ししました。健康的で美味しい減塩を実践・継続するために、食塩/ナトリウムだけでなく、カリウムについても知っておくとよいですね。次回は、減塩に関連して、カリウム補充の効果について厳密に検証した海外の研究について御紹介します。

牛乳

文献・出典

  1. World Health Organization (WHO). Guideline: Potassium intake for adults and children. Geneva, WHO, 2012.
  2. Mente A, O'Donnell MJ, Rangarajan S, et al; PURE Investigators. Association of urinary sodium and potassium excretion with blood pressure. N Engl J Med. 2014;371:601-11. PMID: 25119606
  3. O'Donnell M, Mente A, Rangarajan S, et al; PURE Investigators. Urinary sodium and potassium excretion, mortality, and cardiovascular events. N Engl J Med. 2014;371:612-23. PMID: 25119607
  4. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会.日本人の食事摂取基準(2020年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書.2019.
  5. 香川明夫(監修):八訂 食品成分表2021. 女子栄養大学出版部.2021.
  6. 厚生労働省. 令和元年 国民健康・栄養調査報告. 2019.
  7. The American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines. 2017 ACC / AHA / AAPA / ABC / ACPM / AGS / APhA / ASH / ASPC / NMA / PCNA Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults. Hypertension 2018; 71: e13-e115. PMID: 29133356
  8. He J, Mills KT, Appel LJ, et al; Chronic Renal Insufficiency Cohort Study Investigators. Urinary Sodium and Potassium Excretion and CKD Progression. J Am Soc Nephrol. 2016;27:1202-12. PMID: 26382905
  9. Luo J, Brunelli SM, Jensen DE, Yang A. Association between Serum Potassium and Outcomes in Patients with Reduced Kidney Function. Clin J Am Soc Nephrol. 2016;11:90-100. PMID: 26500246
  10. 日本腎臓学会. 慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年度版.東京医学社. 2014.