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減塩コラム:カリウムと減塩の関係 その① | 千葉東病院 腎臓内科 川口 武彦先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

カリウムと減塩の関係 その①

“More people are killed by overeating and drinking than by the sword.”

William Osler (Canadian physician)

「たいていの人は、武力によってではなく、食べすぎや飲みすぎによって死に至る。」

ウイリアム・オスラー(カナダの医師)


このコラムでは「減塩」をテーマに、腎臓内科医師の立場から、いろいろなお話をしてきました。今回のシリーズでは、減塩に関連して、ミネラルの1つである「カリウム」についてお話しします。「カリウム」は、食塩の成分である「ナトリウム」と並んで、我々の健康を考える上で重要なミネラルであるばかりか、減塩にも深く関わっています。ですので、減塩に興味のある皆さんには、カリウムに関する情報も役に立つかと思います。今回のシリーズの第1回目では、減塩の視点で「カリウム」のお話をする前に、まずは食塩/ナトリウムについて簡単に復習しておきましょう。

塩1

食塩の成分である「ナトリウム」の摂り過ぎは高血圧の原因となります。高血圧は心臓病、脳血管病、腎臓病といった多くの臓器障害を引き起こしますので、高血圧の予防や治療に減塩(ナトリウム制限)はとても重要でしたね。それでは、具体的に1日の塩分摂取量をどれくらいにしたらいいのでしょうか。国際的に見てみると、2012 年の 世界保健機関(WHO) のガイドラインでは、成人の1日の食塩摂取量として5グラム未満が推奨されています。その後2018年のアメリカ心臓学会(ACC)/アメリカ心臓協会(AHA)の治療ガイドラインでは、さらに厳しく、成人の1日の食塩摂取量として3.8グラム(ナトリウム含有量として1日1.5グラム)未満を目標値としています。同年2018年のヨーロッパ心臓病学会(ESC)/ヨーロッパ高血圧学会(ESH)のガイドラインでは、成人の1日の食塩摂取量の目標値を(WHOのガイドラインと同様に)5グラム未満としています。具体的な数値目標に関しては、現在も学術的に積極的な議論が行われていますが、少なくとも塩分の摂り過ぎは高血圧と関連しており、塩分を過剰に摂取しないことが健康維持や疾患管理の上で望ましいと言えます。

塩2

以上で見た世界的トレンドの中で、日本の現状はどうでしょうか。最新の国民健康・栄養調査(2019年)では、日本人の実際の1日の塩分摂取量が約10グラムであることが報告されています。この「1日10グラム」という数字は、過去20年の推移で見ると明らかに減少傾向にありますが、ここ数年ではあまり大きな変化はなさそうです。この現状からすると、日本人の塩分摂取量が、国際的な基準から見て、まだまだ過剰であることが分かります。この背景として、日本の豊かな食文化では、さまざまな食材を生かしつつ「塩」を多用してきた歴史や伝統がありますので、これを一概に否定するものではありませんが、健康管理上は念頭に置いておく必要があるでしょう。

このような国内の状況において、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日の食塩摂取量の目標値を、成人男性では1日7.5グラム、成人女性では6.5グラムとしています。この値は、WHOでも推奨されている1日5 gと、国民健康・栄養調査における塩分摂取量の中央値の、およそ中間の値をとったもので、実施可能性の点から現実的な数値設定となっています。ただし、高血圧や腎臓病の患者さんに対しては、それぞれ日本国内の「高血圧治療ガイドライン(2019年)」や「慢性腎臓病(CKD)診療ガイドライン(2018年)」でも、1日6グラム未満が推奨されています。

このように塩分摂取量の目標値について細かく見てみると、ややこしく感じる方も実際にいらっしゃるでしょう。要点としては、一般的に塩分を摂り過ぎないことが重要である一方で、皆さん個人個人にとっては、その人の健康状態や活動状況に応じた適切な目標設定が必要ということになります。そもそも食塩の成分であるナトリウムは、人間の体には不可欠なミネラルの1つであり、体内のさまざまな生体反応や水分の保持に関わっています。そのためナトリウムが極端に不足してしまうと、疲労感や食欲低下といった症状や、脱水症を起こしてしまいます。熱中症や脱水症のリスクが高い夏場や、御高齢の方など食事量がもともと少ない状況では、ナトリウムが不足して体調不良となる場合もありますので、状況に応じて適切に塩分を補充する必要があります。このような背景もあって、最近では「減塩(げんえん)」に代わって「適塩(てきえん)」という言葉がよく使われることも、以前のコラムでお話ししましたね。特に高血圧や心臓病、腎臓病といった疾患をお持ちの方は、管理栄養士さんによる食事・栄養指導などを通じて、御自身に合った適切な目標を確認することをお勧めします。

診察

以上、減塩の視点から、食塩/ナトリウムについての復習でした。さて、今回のシリーズで取り上げる「カリウム」には、ナトリウムの働きとは逆に、血圧を下げる効果があります。そのメカニズムの1つとして、カリウムには体内のナトリウムを尿から排泄する働きがあることが知られています。つまり、同じ塩分量を摂取していても、カリウムを適切に摂取することで、減塩の効果が得られる可能性があるのです!次回は、このカリウムについて、減塩の視点から少し細かくお話ししましょう。お楽しみに。

文献・出典

  1. World Health Organization (WHO). Guideline: Sodium intake for adults and children. Geneva, WHO, 2012.
  2. The American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines. 2017 ACC / AHA / AAPA / ABC / ACPM / AGS / APhA / ASH / ASPC / NMA / PCNA Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults. Hypertension 2018; 71: e13-e115. PMID: 29133356
  3. The Task Force for the management of arterial hypertension of the European Society of Cardiology (ESC) and the European Society of Hypertension (ESH). 2018 ESC/ESH Guidelines for the management of arterial hypertension. J Hypertens. 2018;36:1953-2041. PMID:30234752
  4. 厚生労働省. 令和元年 国民健康・栄養調査報告. 2019.
  5. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会.日本人の食事摂取基準(2020年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書.2019.
  6. 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会.高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版. 2019.
  7. 日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2018. 東京医学社. 2018.