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減塩コラム:「減塩指導の効果」その① | 千葉東病院 腎臓内科 川口 武彦先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

「減塩指導の効果」 その①

“The doctor of the future will no longer treat the human frame with drugs, but rather will cure and prevent disease with nutrition.”

Thomas Edison (American inventor)

「未来の医者は、人間の体をもはや薬で治療するのではなく、
栄養管理によって病気を治し、予防するようになるだろう。」

トーマス・エジソン(アメリカの発明家)


このコラムでは、塩分を適切な量で摂取することの重要性や減塩の工夫の仕方について、いろいろな角度からお話ししてきました。しかし実際には、普段から多くの塩分を摂取している方が適切な塩分摂取量を継続することは、なかなか難しいものです。

塩

私は腎臓内科医師として、いろいろな形で患者さんの減塩指導を行っていますが、減塩指導の1つの方法として、腎臓病患者さんに対する教育入院プログラムを活用しています。教育入院では、腎臓病の検査や評価に加え、管理栄養士による食事・栄養指導を積極的に行い、同時に減塩食を実際に食べてもらうことで減塩の効果を体感してもらうことができます。以下のグラフは、実際に私の病院で1週間の教育入院を受けた患者さんのデータ(30名)を集計したものですが、入院中に減塩食を食べてもらうと、この短期間で多くの患者さんの血圧が下がることが分かります(なお、この入院中には原則として降圧薬を増量・追加することはなく、むしろ血圧が効果的に下がることで降圧薬を減量する方もいるくらいです)。

慢性腎臓病 教育入院(7日間)による短期効果

患者さん自身が行ったことの効果が目に見える形で分かると、治療を継続するモチベーションが上がりますよね。実際のところ退院後に減塩を継続できるようになる患者さんも多くいらっしゃいます。減塩の結果として血圧のコントロールが良好になると、腎臓病の進展を抑制する効果も期待できます。以下のデータは同じく私の病院で教育入院をした患者さんのデータ(250名)を集計したものですが、教育入院を受ける前と後とで、腎機能の低下速度を比較してみると、教育入院の後では腎機能の悪化が有意に抑制されていることが分ります(なお、腎臓病では徐々に腎機能が低下しますので、腎機能の低下をいかに防ぐかが重要となります)。また、その背景として、腎臓病の特徴の1つである尿蛋白も減少したことが分かりました。

慢性腎臓病 教育入院(7日間)による長期効果

この教育入院の後に腎機能低下が抑制された要因の1つとして、教育入院における減塩指導がキチンと行われた結果として、退院後も減塩が習慣化し血圧管理が良好になったことが予想されます。このように見てみると、減塩に対する教育・指導は、減塩や血圧管理の有効な手段となる可能性があると言えるでしょう。

ただし、このデータは教育入院の効果を示したものですので、外来での減塩指導が入院での減塩指導と同様に効果的かどうかについては、この結果からはわかりません。実際に、患者さん全員に入院してもらって指導を受けてもらうことは難しいですし、一方で外来での限られた時間での指導となりますと、なかなか難しいものです。
このコラムの読者の中には、実際に減塩を実践している方だけでなく、減塩を指導している栄養士さんや医療者の方も多くいらっしゃるかと思いますので、その点は共感して頂けるのではないでしょうか。また、今回お示ししたデータは、同一患者さんの入院前後の状態を比較したものですので、教育入院での減塩指導の効果について厳密に判定することはできません。

これを証明するためには、教育入院による指導を受けた患者さんと、指導を受けなかった患者のデータを比較して、教育入院による指導を受けた患者さんの方が効果的に減塩できたことを示す必要があります。一見簡単そうに見えますが、キチンと計画して実施するのはなかなか難しいものです。ただし世界に目を向けると、このような研究が幾つか報告されており、非常に興味深い内容となっています。次回は、減塩に対する教育効果について、厳密に検証した海外の研究について御紹介します。お楽しみに。