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減塩コラム:「情報による美味しさ」その② | 千葉東病院 腎臓内科 川口 武彦先生
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

「情報による美味しさ」 その②

前回のコラムで、マクドナルドのファーストフードのお話をしました。今回は、コカ・コーラとペプシ・コーラに関する非常に面白い研究について、皆さんに御紹介します。これを読めば、ブランドとしての情報がどれほど美味しさに影響を与えているか、お分かりになるでしょう。

コカ・コーラとペプシ・コーラは共にコーラの有名なブランドですが、ある研究では、どちらのコーラかわからないようにして両社のコーラを飲んでもらいました。すると、コーラの好みは両社で同等でしたが、ブランド名がわかるようにして飲んでもらうと、コカ・コーラの方を好む人が多いことが分かりました!それだけコカ・コーラとしてのブランド力は強力なのでしょうか。

ちなみに、この研究ではさらに興味深いことに、脳のMRI検査(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)を用いて、脳のどの部位が活性化されているかを調べました。その結果、どちらのコーラかわからないようにして飲んでもらった時には、味覚を司っている領域(大脳皮質味覚野)が活性化されているのに対して、ブランド名がわかるようにすると記憶や高度な認知機能を司っている領域(海馬や前頭前野)が活性化されていたのです!これは美味しさが味覚だけでなく、その他の情報によっても判断されていることを示しています。

コーラ

ちなみにコーラについては、この研究とは別に面白いエピソードがあります。コカ・コーラとペプシ・コーラはともに米国のブランドで、歴史的に見ても競争相手であることは周知のことでしょう。ペプシ・コーラの宣伝で有名なのが「ペプシ・チャレンジ」という比較広告です。街の人達にペプシ・コーラとコカ・コーラのどちらかがわからないようにして飲んでもらい、どちらが美味しいか判定してもらうのですが、このペプシ・チャレンジでは多くの人がペプシを美味しいと感じました。この様子をテレビCMとして放送して人気を博し、ペプシの売上向上に貢献したのでした。

しかし一方で、上記の研究では、コカ・コーラとペプシ・コーラのどちらかが分かるようにすると多くの人がコカ・コーラを美味しいと感じたというのは、非常に面白いですよね。この2つの事例は直接比較できるものではありませんが、総合的に推察すると、味としてはペプシ・コーラの方が美味しくても、ブランド情報によってコカ・コーラの方が美味しくなる可能性があるということです(だからこそペプシ・チャレンジが広告として成り立ったわけです)。これは「ペプシ・パラドックス(ペプシの矛盾)」として知られており、なんと学問的にも取り上げられています。

チーズ

このような言葉による情報がなぜ美味しさに影響するのでしょうか。この現象を説明する要因の1つとして、食べ物に対する期待感が考えられます。

別の研究では、同じワインを提供するのに、ワインの産地として有名なカルフォルニア産と表示した場合と、ワインの産地としては無名のノース・ダコタ産と表示した場合とで、ワインを飲む前の期待感とワインを飲んだ後の美味しさが変わるか調査・比較しました。すると、全く同じワインを飲んでもらったのにも関わらず、期待感と美味しさ共にカルフォルニア産の方が評価が高い結果となりました!

この研究でさらに面白いのは、このワインを飲んだ後に、ワインとは全く関係ないチーズを提供した場合、全く同じチーズであっても、カルフォルニア産と表示されたワインを飲んだ方がチーズを美味しく感じ、またワインと一緒に提供したメインディッシュとして食べた食事量も多かったそうです。

このことから分かるのは、食べ物や飲み物に対する期待感によって、一緒に食べる料理もまた美味しく感じ、食事の摂取量も多くなる可能性があるということです。これは減塩料理を美味しく食べるための工夫としてだけでなく、栄養摂取量を増やす必要がある方への対策・対応としても応用できそうですね。

ワイン

文献・出典

  1. McClure SM, Li J, Tomlin D, Cypert KS, Montague LM, Montague PR. Neural correlates of behavioral preference for culturally familiar drinks. Neuron. 2004 Oct 14;44(2):379-87. PMID: 15473974
  2. George Van Doorn, BeyonMiloyan. The Pepsi Paradox: A review. Food Quality and Preference. April 2018, 65:194-197.
  3. Wansink B, Payne CR, North J. Fine as North Dakota wine: sensory expectations and the intake of companion foods. Physiol Behav. 2007 Apr 23;90(5):712-6. PMID: 17292930