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「美味しさ」を見つける その④ ~「視覚」の美味しさ~
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減塩コラム

各先生に減塩に関するコラムを
執筆していただいています

「美味しさ」を見つける その④
 ~「視覚」の美味しさ~

“Dis-moice que tumanges, je tediraice que tu es.”
Jean Anthelme Brillat-Savarin

(Frenchlawyer and politician)

「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人間であるかを言いあててみせよう。」

ブリア・サヴァラン(フランスの法律家・政治家)


我々ヒトは五感を通じて「美味しさ」を感じています。ヒトは食べることで栄養を摂取し生存を維持していますので、本来「美味しさ」とは生死に関わる極めて重要な感覚です。そのためヒトは五感を駆使して「美味しさ」を確認しているのでした。前回のコラムでは、五感のうち「味覚」や「嗅覚」と美味しさについてお話ししましたが、それに続き今回は「視覚」と美味しさについて考えてみましょう。

「視覚」が美味しさに与える影響については、皆さんも日常生活の中で感じることが多いのではないでしょうか。テレビ、インターネット、書籍といった媒体に、食品の視覚的なイメージが溢れているのは、その傍証とも言えます。

緑黄色野菜

視覚の中でも「色」が味覚や嗅覚に与える影響については、過去にいろいろと調べられていて、例えば「赤色」の食べものは「甘味」を増強することが知られています。これは果物のような甘い食品に赤味を帯びたものが多く、その結びつきが強いことによる影響かもしれません。そしてその背景には、ヒトが進化の過程で緑色の未熟な果実の中から赤みを帯びた果実を効率的に発見するために培われた色覚との関連も無視できないでしょう。

一方で、「青色」の食べものはあまり食欲をそそらないように思いますが、これについては時代や地域による違いもあるようです。「青色」が食欲を減退させることを利用して、ダイエット食品として青色のコメが以前に販売されていたこともあるそうですが、人気が出なかったのか、今ではあまり目にすることはありませんね。


有名な論文に、フランスのボルドー大学でワインを専門とする学生を対象にした研究があります。その研究では、ワインの味を評価させる時に、学生には内緒で赤く着色させた白ワインを紛れ込ませたそうですが、なんと皆、赤ワインとして評価したそうです。ワインを専門とする学生であっても、そのワインの違いに気付かなったということは、色によって味覚や嗅覚がどれほど影響を受けてしまうかを示す好例といえます。

ワイン

また食品の色は、鮮やかに見えると美味しそうに見えます。これは食品の新鮮さをイメージさせるからでしょう。青果店でミカンやオクラの包装に赤色や緑色のネットを使用しているのは、食材の色を鮮やかに見せるのに一役買っていますし、かき氷のイチゴ味やメロン味のシロップの色を実際の果汁の色よりも鮮やかにしているのも、このような背景があるからに違いありません。確かに見た目は重要ですよね。

赤いネットのミカン

また料理の場合は、それを盛り付ける「お皿」の色も美味しさに影響することが知られています。例えば、ある実験では、イチゴのムースを白い皿で出した方が、黒い皿で出すよりも、ずっと甘く感じられたそうです。これは赤色のイチゴの色が白い皿によく映え、その熟れた色によって甘さへの期待が高まったことが理由だと考えられています。一般的に料理と皿の色のコントラストが強いと食欲を増す効果があることが知られていますが、これも想像に難くありませんね。

イチゴムース

それでは、このような美味しさに対する視覚の効果を、どのように減塩に生かしたらよいでしょうか。甘味が赤色によって増強するように味覚は食べものの色によって変化することがいろいろとわかっていますが、味覚の中でも塩味は、残念ながら食べものの色によってあまり影響されないようです。これはおそらく、果物が熟れて甘いか、あるいは未だ熟れていなくて酸っぱいかのシグナルとして「赤色」や「青色」が働く一方で、塩味に直結する色のシグナルが自然界には存在しないからかもしれません。

しかし最近では、視覚の効果を利用した減塩の試みとして、拡張現実感(Augmented Reality: AR)の技術による減塩方法も考案されています。例えば、実際には塩がついていないポテトチップスに、塩粒の画像をマッピングしたポテトチップスを見せてから、そのポテトチップスを食べてもらうと、塩粒の画像をマッピングしていないポテトチップスを食べるよりも塩味を強く感じたそうです。

このような試みは、まだ始まったばかりかもしれませんが、とても面白いですね。現在のところ日常生活では、視覚の効果を減塩に直接生かす方法はないかもしれませんが、色彩豊かな食材を利用したり、調理の際に色味を工夫したり、盛りつけの際にお皿の色のコントラストを強調することで、料理が一層美味しくなれば、余計な塩分を減らすことに役立つに違いありません。効果的な減塩のためにも、視覚的な要素も是非活用して、自分にとって健康的な「美味しさ」を見つけましょう。


次回は「視覚」に続いて、「聴覚」と美味しさについてお話しします。

色彩豊かな食事

文献・出典
  1. Eating with our eyes: From visual hunger to digital satiation.Spence C, et al. Brain Cogn. 2016;110:53-63.
  2. On the Relationship(s) Between Color and Taste/Flavor.Spence C.Exp Psychol. 2019;66:99-111.
  3. The color of odors.Morrot G, et al. Lang. 2001;79:309-20.
  4. 日本規格協会.JISハンドブック 色彩.日本規格協会. 2019.
  5. 岡嶋克典.ARとクロスモーダル効果を用いた減塩化 ~食品認知工学の展望~ 日本味と匂学会誌. 2018;25:123-6.